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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9469号 判決 1998年3月26日

原告

高野谷昇

被告

松井孝之

主文

一  被告は、原告に対し、二七七六万一九一七円及びこれに対する平成七年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、五九二〇万六五六七円及びこれに対する平成七年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が自転車に乗って停止中の被告車両側方を通過しようとした際、被告が右車両のドアを開いたためにこれに接触して転倒し負傷したとして、被告に対し、不法行為に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1、2は当事者間に争いがなく、3は甲第四号証及び弁論の全趣旨により認めることができる。

1  被告は、平成七年五月二七日午前一〇時三五分ころ、普通貨物自動車(神戸一一に七〇一八、以下「被告車両」という。)を運転中、兵庫県西宮市鳴尾町二丁目一一番二〇号先路上において、被告車両を停止させてドアを開ける際、被告車両脇を自転車に乗って通過しようとした原告に被告車両のドアを接触させ、原告を転倒させた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告が、周囲の安全の確認を怠り被告車両のドアを開いた過失により発生した。

3  原告は、本件事故により右肘関節肘頭骨折等の傷害を受けた。

二  争点

1  原告の後遺障害

(原告の主張)

原告は、本件事故による受傷のため、右手肘の可動域が狭まり、本来一八〇度のところ、伸展マイナス五〇度、屈曲九五度で、四五度の範囲でしか肘を動かすことができなくなったところ、右後遺障害は自動車損害賠償保障法施行令二条別表障害別等級表(以下「等級表」という。)八級六号と同一〇級一〇号の中間に位置するものとして、同九級に該当すると解すべきである。なお、原告は、右のほか、右手指四、五指にしびれ感を残しており、この点を後遺障害認定に当たって考慮すべきである。

(被告の主張)

原告の後遺障害は、等級表一〇級一〇号を超えるものではない。

2  原告の損害

(原告の主張)

原告は、本件事故により、後記第三の二の各費目欄掲記の損害を受けた。

(被告の主張)

原告主張の治療費、入院雑費、通院交通費以外は争う。ことに、逸失利益については、原告は復職後減収がなく、むしろ順調に昇給昇進しており、逸失利益の発生は認められない。

(原告の反論)

原告の属するソフトウェア業界は日進月歩の激しい技術革新がなされており、原告の現在の職が続く保証はなく、原告が転職を余儀なくされた場合、右手肘の障害が就職に際してハンディキャップとなることは疑いなく、労働能力喪失率に従った損害のてん補がされるべきである。

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告の後遺障害)について

1  甲第二号証の一ないし四、第三、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、本件事故により右肘関節肘頭骨折等の傷害を受け、平成七年五月二九日から同年七月一七日まで、同年一一月六日から同月一九日まで田中病院に入院したほか、同年七月一九日から同年一一月二日まで、同月二〇日から平成八年九月九日まで同病院に、同年三月二五日、同年四月八日に薬王堂病院に、同年四月一日から同月五日まで広実病院に、同月八日に行岡病院に、同月一六日から同年九月九日まで大阪市立十三市民病院(以下「十三市民病院」という。)にそれぞれ通院した。

(二) 原告は、平成八年九月九日十三市民病院で症状固定の診断を受け、症状固定時、自覚症状として右肘関節可動域制限、右肘関節の軽度動作時痛、右手第四、第五指のしびれ感があり、右肘関節の可動域は、自他動とも伸展が右マイナス五〇度、左〇度、屈曲が右九五度、左一四五度であった。

2  右によると、原告は、右肘関節の機能に著しい障害を残したものとして、右障害は等級表一〇級一〇号に該当するものというべきである。同九級に該当するとの原告の主張には十分な根拠はなく、また、右手指四、五指のしびれ感についても、これを裏付ける他覚的所見に乏しく、これをもって後遺障害と認めるには足りない。

二  争点2(原告の損害)について

1  治療費 三万〇八二〇円(原告主張どおり)

原告が前記入通院のための治療費として三万〇八二〇円を支出したことは当事者間に争いがない。

2  入院雑費 八万三二〇〇円(原告主張どおり)

原告が前記入院中に一日当たり一三〇〇円、合計八万三二〇〇円の雑費を支出したことは、当事者間に争いがない。

3  通院交通費 九万三〇八〇円(原告主張どおり)

原告が前記通院のための交通費として合計九万三〇八〇円を支出したことは、当事者間に争いがない。

4  休業損害 一一六万三三八二円

(原告主張一九一万二〇六二円)

甲第一号証、第四ないし第六号証、乙第一ないし第三号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時スカイ・シンク・システム株式会社に勤務し、平成七年二月から同年四月までの間に一二四万二九五〇円の給与の支払を受けていたが、平成七年五月二九日から同年七月三一日まで六四日間欠勤し、うち、年次有給休暇を二六日使用したが、その余については四一万六六五〇円減給されたこと、平成七年一一月六日から同月一七日まで一二日間欠勤し、うち、年次有給休暇を一一日間使用して給与は全額支給を受けたこと、右欠勤により平成七年冬季賞与を二三万円減額されて支給を受けたことが認められる。

右によると、原告の欠勤による減収分四一万六六五〇円及び賞与の減額分二三万円は本件事故による損害と認められる。

また、原告が有給休暇の使用によって減収を免れた分についても、本件事故による損害と認めることができ、その額は次のとおり五一万六七三二円と認められる(円未満切捨て、以下同じ。)。

計算式 1,242,950÷(28+31+30)×(26+11)=516,732

原告は、以上のほか、会社内規により賞与は欠勤日数一日当たり一万円を差し引かれることから、これにより六七万五〇〇〇円の損害を受けたと主張するが、右内規の存在についてこれを認めるに足りる的確な証拠はないうえ、原告が、前記二三万円以外に賞与を減額されたことを認めるに足りる証拠もないから、右主張は採用できない。

以上によると、原告の休業損害は、一一六万三三八二円となる。

5  逸失利益 一八〇九万一四三五円

(原告主張四三五六万七四〇五円)

乙第四号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和三六年一月四日生まれで、スカイ・シンク・システム株式会社のソフトウェア開発部主幹として、ンフトウェアの設計、制作の業務に従事し、デスクワークのほかにソフトウェア開発の際、顧客の使用している機種のコンピューターを使用するため、パソコンやテスト用機材を搬入、搬出する作業等もあり、前記後遺障害のためこれらができなくなっていること、しかし、原告が平成六年の年収は五七五万四四六五円であったが、平成九年には約八五〇万円となり、本件事故によって減収が生じていないばかりか、かえって、順調に昇給していることが認められる。しかし、原告の属するソフトウェア業界は日進月歩の激しい技術革新がなされており、原告の現在の職が続く保証はなく、原告が転職を余儀なくされた場合、右手肘の障害が就職に際してハンディキャップとなることは疑いないと主張する点は社会通念上首肯できないではなく、また、原告本人尋問の結果によれば、スカイ・シンク・システム株式会社の定年年齢は五五歳と定められていることが認められるから、原告は、症状固定時から五五歳までは労働能力の一二パーセントを喪失したものとして算定し、また、それ以後は六七歳までの間平成八年賃金センサス・産業計・企業規模計・学歴計・五五ないし五九歳の男子労働者の平均賃金である六五七万一二〇〇円を基礎に、労働能力の二七パーセントを喪失したものとして算定するのが相当であり、それぞれについて右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、原告の逸失利益の本件事故時の現価は、次のとおり一八〇九万一四三五円となる。

計算式 {5,754,465×0.12×(13.616-0.952)}+{6,571,200×0.27×(19.183-14.104)}=18,091,435

6  慰藉料 六三〇万円(原告主張八五二万円(入通院分二一二万、後遺障害分六四〇万))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰謝するためには、六三〇万円の慰藉料をもってするのが相当である。

三  結論

以上によれば、本件事故による原告の損害は二五七六万一九一七円となるところ、本件の性格及び審理の経過並びに認容額に照らせば、弁護士費用は二〇〇万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、二七七六万一九一七円及びこれに対する本件事故の日である平成七年五月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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